インタビュー記事「シルクで頑張る人」Vol.10を公開しました。
100年以上続く、味澤製絲株式会社の4代目代表取締役社長として、シルクインテリア製品の開発・製造に取り組む味澤宏重氏。
これまで岡谷シルク一筋で活躍され、岡谷シルクブランド協議会では副会長も務められ、岡谷シルクの魅力を伝える活動にもご尽力されてこられました。
今回は味澤社長に、これまでの同社の歴史と、シルクインテリア製品の開発についてお話を伺いました。
ぜひご覧ください。
100年以上続く、味澤製絲株式会社の4代目代表取締役社長として、シルクインテリア製品の開発・製造に取り組む味澤宏重氏。
これまで岡谷シルク一筋で活躍され、岡谷シルクブランド協議会では副会長も務められ、岡谷シルクの魅力を伝える活動にもご尽力されてこられました。
今回は味澤社長に、これまでの同社の歴史と、シルクインテリア製品の開発についてお話を伺いました。
ぜひご覧ください。
岡谷の市街地から天竜川を越えて、諏訪湖を左手に眺めながら5分ほど車ですすむと「味澤製絲株式会社」という門が右手に見えてきます。この諏訪湖のほとりに工場を構える味澤製絲株式会社は、明治45年に創業した100年以上の歴史ある会社です。平成10年(1998年)まで製糸工場として稼働したのち、現在は主にこれから紹介をするランプシェード等を主力商品としたシルクインテリア製品等の製造・販売業を営んでいます。
人の生活を成り立たせている衣食住。シルクという素材はこの衣食住のうち「衣」に用いられることが多い素材ですが、味澤製絲株式会社では「住」に取り入れるという新たな取り組みを進めています。原料となる繭もすべて国産にこだわり、製糸工場時代から受け継がれている技術を生かして質の高いものづくりに取り組んでおられます。今回は、その製品の製造風景を見せていただきました。
シルクシェル「絹煌(きぬきらめき)」
生糸を球体の型に巻き付けてつくられる、中に骨組みが入っていないシルクだけでできたシェード。シルクの糸を幾重にも重ね、その糸の重なりの変化によって、その表情はいく通りにも異なります。その円形の形から、あかりがつくとまるでお月様のような見た目で、おぼろげな優しい光がこぼれます。シルクは熱をつたえにくく、熱に強い素材のため、照明を長時間つけていてもあまり熱くなりません。まさにシルクの特性が生かされた照明です。
繭殻(Cocoon shell)にちなんでシルクシェル(Silk shell)=シルクの殻という名前がついているとおり、まるでお蚕さまが糸を吐いて作った繭のような見た目をしています。その出来上がる工程も、お蚕さまが繭をつくる原理に似ています。最初に繭から引き出した糸を乾燥せずに濡れた状態のまま、回転している丸い型に巻きつけていくのですが、その糸を引き出して型に巻き付ける様子は、まるで蚕が糸を吐き出して繭をつくっていく様子のようです。
お蚕さまが頭を八の字に動かしながら、繭を作っていくのに対して、このシルクシェルの場合は、型を回す軸が角度を変えるなどして、その巻く位置と巻き目の表情を変えていきます。型に少しでも角があると糸が切れてしまったり、たるんでしまうため、試行錯誤を繰り返して今の円形のデザインが生み出されました。
糸を巻き終わった型ごと乾燥させた後、型を分解してシェルの内側から取り外せば、シルクシェルの完成です。注文を受けてから、丁寧に一つ一つ作られるシルクシェルは、その表情も多様です。天然繊維であるシルクの糸を素材とするため、その製造する環境や湿度次第で微妙な変化が生じてしまいますが、そうした難しさを乗り越えながらも再現性を高めるべく、回転する速度・回転軸の角度・巻き数を調整しながら、多様な模様が生み出されています。複数のシルクシェルを並べるとこの多様な光の模様が目を楽しませてくれます。
プレスドシルク「シルクシート」「絹やすらぎ」
薄くシルクの繊維が広がる柔らかい表情のシート。名刺やお品書きの台紙、ランプシェードとして使われています。光沢のあるシルク素材によって、和紙とはまた異なった高級感が特徴的です。
昔から布団の中綿などで利用されてきた真綿と呼ばれる、繭糸のまわりのセリシンをアルカリ液で取り除きワタ状にしたものがありますが、また別の方法でワタ状のシルクをつくる技術が開発され、シルクウェーブと呼ばれています。繭糸がもっている自然なウェーブ(カイコが吐いた8の字状)を生かして、繭から繭糸を引き出す際に糸同士が一本一本分かれるように巻き上げたワタ状のシルクです。
このシルクウェーブを平たく並べ、アイロンをするように水分を少し加えて熱でプレスすると、糸同士がセリシンと呼ばれる成分によって接着されてシート状になります。この技術によって出来上がった「シルクシート」はカットして名刺にしたり、枠にはめることでランプシェード「絹のやすらぎ」になります。
押し花や紅葉などをワンポイント的にはさみこんだ季節を感じられるシルクシートもあります。このシートに挟み込まれた押し花は、味澤製絲㈱の周辺で育った四季の草花に手作業で色をつけ、押し花にしたものだとか。この諏訪湖のほとりの四季が閉じ込められているようです。
幸せを呼ぶ『シルク「おんべ」』
この工場の片隅では、シルクで小さな「おんべ」も作られていました。「おんべ」とは、7年目(6年に1回)諏訪地域で行われる御柱祭にて、みんなの力を合わせるときに用いられる道具のことをいいます。「おんべ」を振ることでその祭りにかかわった人々に幸せがおとずれるとされており、とても縁起のよいものです。
味澤製絲㈱の味澤社長ご自身も、これまで御柱祭にて地区の代表として総代という大事な役回りを務められたこともあるとか。そんな地域の文化をつたえるお土産として、キーホルダー「シルクおんべ」がつくられました。シルクおんべは、束になったシルクウェーブに鈴などの飾りをつけて、一つ一つ手作業で作られています。
味澤製絲㈱では、製糸業で培った、繭を煮て糸を取り出す技術をシルクインテリア製品の製造に応用しています。シルク糸の間から漏れる灯りの自然な温もりや、さわり心地よさによって、暮らしをより快適に豊かに演出してくれるシルクインテリア。ランプシェードは、ホテルや飲食店など癒しの空間でも広く取り入れられているようです。実際にその制作の背景を知ると、実際に生活に取り入れて、その魅力を味わってみたくなりますね。
>味澤製糸㈱の歴史や製品に関する味澤宏重社長へのインタビュー記事
味澤宏重 Azisawa hiroshige – 岡谷シルク
>味澤製糸オンラインショップ
書き手:地域おこし協力隊 伊東ゆきの(2025年7月)
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養蚕体験お申込みについて養蚕体験お申込みについて
7月26日(土)・7月27日(日)の2日間に渡りLAKEHOOD OKAYA にて
2周年を記念したイベントを実施します。
当日の会場内では、BBQイベントが開催されるほか
ワークショップイベントやステージイベントとイベントが盛りだくさんに
なっているので楽しめること間違いなし!
岡谷蚕糸博物館も7月27日(日)13:00~16:00の間
ワークショップイベントに出展しますので皆様ぜひ、お越しください!
また、諏訪湖スマートICの開通に伴いアクセスもしやすい立地になっているので
皆さま是非、お立ちよりくださいね!
当日イベントのチラシも別添にて添付してありますので
詳細はイベントチラシをご確認ください。
2025年6月〜7月にかけて、ファイバーアーティストの王有慈さんがアート作品制作を目的として岡谷に約3週間滞在されました。作品制作をするかたわら、作品の素材となるシルクを深く知るために、蚕糸博物館にて岡谷と製糸業の歴史を学び、三沢区民農園にて養蚕、宮坂製糸所にて製糸、岡谷絹工房では染織を体験。滞在の集大成として、岡谷美術考古館にて「自然との出会い」をテーマに作品展示が行われました。
今回は、岡谷でのアーティスト・イン・レジデンスを体験された王さんに、これまでの活動や、ここ岡谷のまちでの過ごした感想についてお話を伺いました。
素材であるシルクとの出会い
王さんの作品は、シルクファイバーアートという名前の通り、シルクの糸を使った立体的な表現が特徴です。王さんが作品の素材となるシルクに出会ったのは、台湾の大学でファインアートを学んでいたときでした。研究するテーマを考えていたときに、シルクはもっとも古くから人々の生活の中で使われてきている素材であり、その歴史の長さに惹かれて、シルクをテーマとすることに決めたそう。かつて台湾でもシルクは衣服や寝具など、人々の暮らしに多く用いられていましたが、現在ではその文化も養蚕を行うところも少なくなっているといいます。
「天然繊維であるシルクは、生み出すのにも時間がかかる上に、制作工程も複雑であることから、現代の台湾ではシルクの歴史や文化、アートの研究をしている人は少ないです。だからこそ、私がやろうと思いました。」と王さんが語るように、シルクの作品づくりを始めた当初は、シルクの扱い方を教えてくれる先生などが身近にいなかったため、古い文献を探して独学で繭から糸をとる手法を学び始めたそう。最初の頃は適当な繭の茹で時間も温度も分からず、繭から糸がうまく出てこなくてとても苦労をしたといいます。
ところが、大学院時代の東京藝術大学への1年間の留学が、シルクの技術習得と研究を深めることにつながります。東京藝術大学では、シルクに布海苔をつけて、和紙のように立体的な作品を作る手法を教わったり、全国各地の産地でリサーチを行い、効率的に繭から糸を取る方法などを学んでいきました。
シルクで表現をすること
「台湾では、お葬式の時、亡くなった人にシルクの服を着せれば、その人の魂は天国に行くことができるという言い伝えがあります。それは、人だけではなく、カイコも同じではないかと私は思いました」と王さんは話します。つまり、人間がシルクの衣を纏うことであの世に行けるように、カイコという生き物も繭というシルクの衣を纏って転生をする。そのシルクを介した二つの生き物の相関関係に、王さんは魅せられたといいます。
「昔からシルクを用いる場面は3つあります。1つは神様と繋がる祭祀の場、2つ目は葬儀、3つ目は葬儀などのセレモニーの装飾として。全ての場に共通するのは、『魂の転生』する場であるということ。このことを最初に知った時、シルクは私が表現をしたいテーマであることに気づきました。」昔の人が行っていた方法で、実際に自分の手で繭から糸を取っていると、最後にサナギ姿のお蚕さまが現れます。このように、生きたものから素材をいただく経験を通じて、昔の人々が、シルクを特別な素材として用いた意味がよく理解され、自らも「命」をテーマにシルクで表現をすることを決めたといいます。
岡谷との出会い
そんな王さんがここ岡谷のまちに出会ったのは、群馬県にある富岡製糸場を訪ねた際に見つけた本がきっかけでした。その本を読み進めていく中で「かつて群馬県からたくさんの糸が横浜に運ばれていたように、長野県の岡谷というまちから横浜にシルクの糸が大量に運ばれていたことを知り、私も横浜と群馬を訪ねた後は、次は絶対に岡谷に行くべきだと思いました。」と王さんはいいます。まさに日本のシルクロードを辿っていくうちに、岡谷のまちに出会った王さん。初めて岡谷に訪れたとき、岡谷蚕糸博物館を訪問して、岡谷のまちでは養蚕が今でも行われていることを知り、アーティスト・イン・レジデンスという形で作品制作をしながら岡谷に滞在することを決めたといいます。
三沢区民農園での初めての養蚕体験
今回の滞在期間中、王さんは作品の制作をする傍ら、三沢区民農園にて毎日朝から養蚕の作業に参加していました。4万頭の春蚕を育てている養蚕シーズン真っ盛りの三沢区民農園にて、桑畑で桑の葉を大量に収穫し、お蚕さまに与える作業をする日々。慣れない作業は、さぞかし大変だったのではと思いきや、「本当に楽しかった。もう毎日見るたびにカイコが成長して違って見えるから、毎日でも見に行きたいと思いました。」と王さんは話します。実際に、王さんがお世話をしたお蚕さまの繭の一部は、三沢区民農園のご厚意によって、今回の展示された作品にも生かされています。
「岡谷は自然が綺麗だから、お蚕さまを育てることができる。そして、たくさんの優しい人たちがカイコを育てている様子をみて、すべてはこの綺麗な自然があるから生まれているのだと感じました。」と王さんは語ります。さまざまな側面から岡谷のまちをみて、人々との交流をしていくうちに、今回の作品制作のテーマは、「自然との出会い」に決まったそうです。
宮坂製糸所や岡谷絹工房、岡谷蚕糸博物館での出会い
養蚕以外にも、宮坂製糸所では糸とり体験を、岡谷絹工房では染織を体験した王さん。宮坂製糸所で初めて上州式繰糸機を体験して、手足を別々に動かして糸をとることに悪戦苦闘しながらも、繭の煮方や糸とりの方法に新たなヒントをもらったといいます。
岡谷絹工房ではりんご染めを体験。冷涼な長野ならではの素材を使った染色を知り、新たな自然の色との出会いに感動したそう。
岡谷蚕糸博物館では、髙林館長とシルクという素材の特性を生かした様々な技術・手法について話をしていく中で、「プレスドシルク」(ワタ状にしたシルクを熱を使ってプレスする手法)という新たな手法にも出会うことができたといいます。さっそく作品づくりにも生かされていました。
岡谷とシルクについて
今回滞在する中で調査した岡谷のシルク文化を台湾でも伝えていきたい、と語る王さん。実際に岡谷のまちに滞在した感想について聞いてみると、「みんながシルクを通じて繋がっている様子が、見ていて本当に良かった。シルクや養蚕のためにあらゆる人々がこのまちに集まり、協力している感じがしました。シルクのおかげで人と人の距離も近くみえました。」と語ってくれました。王さんの目には、岡谷のまちが「シルクを通じて人と人が繋がるまち」として映ったようです。
滞在期間の最後には、岡谷美術考古館にて王さんの作品展示会が行われ、ここ岡谷に滞在しながら制作された約10点の作品が新たに発表されました。作品には、王さんが岡谷のまちで過ごした時間や人々との時間が詰まっていました。今回の展示会の様子は、以下の王さんのインスタグラムでも紹介されているので、ぜひご覧ください。
主な経歴
台湾出身のファイバー(繊維)アーティスト、王有慈 Wang You -cih。2019年国立台南芸術大学材質創作学系卒、2024年同学応用芸術研究科修士染織専攻卒。2023年には国立東京芸術大学工芸染織専攻の交換留学生として1年間日本滞在し、本の絹糸に関するフィールドワークを行う。シルクを主な研究専攻とし、絹糸と生命の繋がりを探求することを主な創作テーマとする。
Instagram :@silk_cih https://www.instagram.com/silk_cih/?igsh=Mzkyd3VxZjloa25p
岡谷市では、シルクを通じて、人と人が繋がる機会や学び場の提供を行なっています。岡谷での、シルクを用いたアート作品の制作などのご相談については、以下までお問い合わせください。
【お問い合わせ窓口】
岡谷市役所ブランド推進室(岡谷蚕糸博物館内)
電話:0266-23-3489
E-mail:brand@city.okaya.lg.jp
(書き手:岡谷市地域おこし協力隊 伊東ゆきの、2025年7月)
7月11日金曜日
台湾のアーティスト、王有慈さんが岡谷市での活動を終え、岡谷市長を訪問しました。
王さんは、6月から7月にかけての約1か月間岡谷市へ滞在し、養蚕体験等シルクに関する体験を行うとともに
滞在中に繭や糸を使用した作品の制作を行い、岡谷美術考古館での展示を行っていました。
今回の訪問では、岡谷市での活動報告、そして岡谷市で自ら制作・展示を行った作品を三点ほど市長へ紹介しました。
〈市長訪問の様子〉
そして、王さんの岡谷市での活動は、7月12日をもって終了となりました。
滞在期間中、王さんは様々な体験や活動を行い、岡谷市での活動に尽力されていました。
作品を制作しながらの活動はハードなものだったかと思いますが、いつも興味津々で楽しそうに活動する王さんの様子が印象に残っています。
またいつか、岡谷市を訪れていただきる日を楽しみにしています。
王さんの活動を、これからも応援しています!
最後に、王さんの市長訪問の様子がこちらです。
■訪問の様子
■作品を紹介する王さんの様子
今回は、岡谷市地域おこし協力隊OGであり、現在はTINTt株式会社の代表取締役として、
滞在型ワークショップやシルク商品を通じて、岡谷シルクの文化と価値を伝えている、佐々木千玲さんです。
ぜひご覧ください!
現在、台湾のファイバー(繊維)アーティストの王有慈さんが岡谷市で活動しています。
2017年から絹糸に興味を抱き、まゆから糸を手作業で取り出すところから作品を制作しています。
王さんは、2025年6月13日から2025年7月12日の約一か月間、岡谷市に滞在し
養蚕に関する実地体験を経て、作品制作、そして現在岡谷美術考古館にて作品の展示会を開催しています。
三沢区民農園での養蚕体験、宮坂製糸所での糸取り体験、岡谷絹工房での染めの見学など
養蚕にかかわる様々な場所に足を運び、シルクのまち岡谷を体感していました。
これらの体験や岡谷のまちの姿から着想を得て、岡谷市での滞在期間中に10点の作品を制作し、
現在、岡谷美術考古館にて作品の展示会を開催しています。
詳細は以下の通りです 。
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場所:岡谷美術考古館1F 交流広場
料金:無料(同展のみ)
期間:2025年7月5日(土)~2025年7月10日(木)
時間:10:00~18:00
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ぜひ、お越しください!!
最後に、こちらが活動の様子です ↓
■蚕室での給桑の様子
■蚕室での収繭作業の様子
■宮坂製糸所での糸取りの様子
■作品制作の様子
岡谷蚕糸博物館では、学校と連携しながら「カイコ学習」の機会を提供しています。
「カイコ学習」では、カイコを育てながら、カイコの餌となる桑のこと、カイコの生成する姿や
繭から糸をとって生糸とする過程、そして、この地方で栄えた製糸業について学びます。
こうした学びを通じて、カイコの命をいただいていることを実感する、そんな学習です。
今回は岡谷市立川岸小学校3年生のカイコ学習の様子を見せてもらいました。
川岸小学校は、その昔、製糸工場や養蚕農家が多くあった川岸エリアにあり、
毎年この時期に生徒の皆さんがカイコを自分たちの手で育てながら学ぶ「カイコ学習」が行われています。
学校の正門横には、かの有名な渋沢栄一の言葉「蠶業益國奨學樹人」
(蚕糸業を発展させ国のために役立たせるには学問奨励し人を育てることが大切)と書かれた石碑があり、
この地域が養蚕や製糸業と深い関わりがあったことが伺えます。
今回は、その川岸小学校3年生の授業にお邪魔してきました。
岡谷蚕糸博物館の学芸員さんがカイコを持って、学校に着くやいなや「カイコが来たぞー!」と元気な声が。
今日お迎えするのをとても楽しみにしてくれていたようです。
まずは、岡谷蚕糸博物館の学芸員さんからカイコの歴史や成長過程、お世話の方法を学びます。
カイコは7,000年の歴史があると言われていますが、
その人間とカイコがふれあってきた歴史の長さをロープを使って表現をしてみると、
「うわーそんな歴史があるんだ。」と感心する声が上がっていました。
こどもたちは、これから土日はカイコをお家に持って帰って自分で育てるので、
一生懸命に学芸員さんが教えてくれたカイコの育て方のポイントをノートにとっていきます。
こどもたちのノートには、浮かんだ疑問や仮説もメモしてありました。
これからカイコを育てながらこの疑問や仮説に対して、自分なりに答えを求めていきます。
3年生はちょうど理科の学習が始まる学年ですが、
まさに理科の基本となる「観察・調査・結果」と言った研究の手法を学ぶことができます。
学芸員さんによるレクチャーを受けたあと、いざ自分が育てるカイコを受け取ります。
「きゃー可愛い!!」と歓声があちこちから上がっていました。
一人6頭ずつカイコを受けとったあとは、さっそくカイコに桑の葉を与えていきます。
大きな葉はそのままあげても大丈夫かな?小さくちぎってあげた方がいいかな?
葉は表と裏のどっちが食べやすいのかな?
こんなに上に葉っぱ乗っけたらカイコ上がってこれないかな?
濡れた葉っぱを与えたらどうなっちゃうのかな?
博物館の桑は大きくて、とれたてのいい匂いがするね、どうやったらこうなるんだろう?
といざ自分の手で育てるとなると、自分ごとのように思えてくるのか、たくさんの質問が出てきました。
試行錯誤しながらこうして自分の手で育てることで、
生きた知識としてカイコや桑の性質について学んでいくことができます。
例えば、桑の葉を与えるにしても、自分が暮らしている地域のどこに桑の葉が生えているのか、
どこの桑の木だったら農薬が撒かれていないのか、調べることはたくさんあります。
この日、こどもたちからは、
「農薬がついている葉を食べたらカイコが死んじゃうのはわかったけど、
どうやったら農薬がまかれていないか見分けることができるの?」といった質問が出てきました。
先生から「日頃から公園や畑を世話している地域の方々が一番よくわかっているので、
お家に帰ったら地域の人に直接聞いてみてください」と伝えられていました。
カイコに与える桑の葉を探すことで、こどもたちは地域を散策して、
身近にある自然を観察し、地域の方々とも交流を広げていくことができます。
カイコを育てることがきっかけとなり、地域を学ぶ機会に繋げることもできるのが、カイコ学習の面白さの一つです。
川岸小学校のこのクラスでは、このカイコを迎え入れる前の事前準備として、
学校や地域で拾ってきた桑の葉の種類を事前に調べてくれたようです。
教室には採取してきた桑の葉が採取した場所とともに、ポスターとして掲示されていました。
桑の木を探して、地域を歩くともっといろんなことも見えてくるようです。
ある子が自分で書いた絵を見せてくれました(以下写真)。
川岸小学校は天竜川の辺にあり、高尾山など山々に挟まれています。
その間に養蚕エリアが広がり、今でも三沢区民農園の桑畑があることから、
山から川へ流れる水や栄養分によって桑の木とそれを食べるカイコは育てられています。
その様子がこの絵には表現されているようでした。
まさに地域を学ぶ教育の素材としてもカイコ学習は生きているように思えます。
これから育っていく中でこどもたちは広い世界に出ていくことになりますが、
まずは目の前のミクロな世界をよく観察して、それから広い世界を見ることで、
より解像度高く世界を捉えられるようになるのではないでしょうか。
これから子どもたちはカイコを育て、カイコが繭になる頃にまた学芸員さんが学校を訪問して、
次はカイコの繭をどうしていくのか、授業をする予定です。
今回の授業の最後に、学芸員さんからこんなお話がありました。
「なぜ『お蚕様』と『お』と『さま』を付けて呼ぶのか理由が分かるかな?
これからカイコを育てながら、どうして人は『お蚕様』と呼びながら育てたのか、
みんなの中でお蚕様がどんな存在になっていったのか、考えてみてくださいね。
その答えを私がまた授業に来た時にぜひ教えてほしいです。」
これからカイコを育てる中でこどもたちが何を感じて、学んでいくのでしょうか。
次回の授業の際にどんな感想がでてくるのか今から楽しみです。
6月22日(日)
滞在型ワークショップ草木染めストールコースが始まりました。
この日の参加者は4名。
初めに自己紹介をして、講師の方から絹工房(旧山一林組製糸事務所)の建物や歴史についての説明を聞き、実際に機織りをしている様子も興味深く見入っていました。
そして、いよいよ草木染めの体験が始まります。
前期の植物は、信州のりんごの木です。
今回は、ふじ・高徳・アルプス乙女の枝を合わせて煮出したものを使用し、色を付けていきます。
糸の扱い方を教わり、どのような色になるのか想像しながら染めていきます。
染めあがった糸は、優しいピンク色に色づきました。
参加者の方々にも、自然の作り出す色合いを楽しんでいただけたようです。
次回7月には、この染めた糸を使用してストールを織っていただきます。