シルクで頑張る人

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Vol.12
宮坂美登利 Miyasaka Midori
宮坂美登利 Miyasaka Midori
岡谷蚕糸博物館まゆちゃん工房クラフトアシスタント
横浜出身。結婚を機に岡谷市に移住。3人のお子さんとカイコを自宅で育てる体験をしながら岡谷蚕糸博物館や宮坂製糸所にも通い、シルクについて学びを深める。2020年より岡谷蚕糸博物館まゆちゃん工房にてクラフトアシスタントとして、工房に体験に来られる人々に繭工作の魅力を伝える活動を続けている。

岡谷蚕糸博物館まゆちゃん工房のクラフトアシスタントとして活動される宮坂美登利さん。カイコ好きのお子さんがきっかけで岡谷蚕糸博物館に出会い、現在は同館で繭工作を教える活動をしています。今回は、お子さんとご自宅でカイコを育てた経験や岡谷蚕糸博物館との出会い、そして繭工作の魅力についてお話を伺いました。   

まゆちゃん工房にて繭工作について語る宮坂美登利さん

最初に岡谷蚕糸博物館に出会ったのは、どういうきっかけがあったのですか。

長男がカイコに興味をもっていて、カイコを家で飼い始めたことがきっかけで、岡谷蚕糸博物館にも通うようになりました。岡谷蚕糸博物館に行けば、一年中カイコを見ることができるので、幼稚園の帰り道に週5回の頻度で通っていたのです。それからシルクにも興味を持つようになって、子供と一緒に博物館のセミナーやイベントにも参加するようになりました。蚕糸博物館の学芸員さんにもいろいろ教えて頂いて、まゆちゃん工房では繭工作などの体験もさせて頂きました。当時、繭工作の作品コンテストというのもあって、息子と一緒にどんな作品がいいのか、考えたりしました。それが今、岡谷蚕糸博物館のクラフトアシスタントのお仕事をするきっかけにもなっています。

最初はお子さんがきっかけだったのですね。美登利さんご自身もお蚕さまに興味があったのですか?

わたしは生糸の輸出港であった横浜出身なので、自分も小学生のときにカイコを飼った経験があり、ある程度の知識は持っていたのですが、正直なところ最初お蚕さまを飼うのはすこし嫌でした。でも、とにかくカイコが大好きな息子のために、博物館に連れていったり、自分でも調べていくうちにカイコをはじめとする虫の奥深い世界に出会い、いつの間にか可愛く思えるようになってきました。

カイコ好きだったお子さんも今では中学生に成長。

カイコ好きのお子さんの影響で次第にのめりこんでいったのですね。自分でお蚕さまを育てたりもしたのですか。

調べていくうちにカイコは家でも飼えるということが分かったので、カイコの卵を購入して家でも育てるようになりました。カイコを育てるために家の庭には桑の木が植えてあります。毎年岡谷蚕糸博物館から少しずつ桑の挿し木をもらって育てたり、おばあちゃん家に植わっていた桑を移してきたりして、今では自宅の庭に6本の桑が植わっています。種類も様々で桑の実がおいしいマルベリーや枝垂れ桑(しだれくわ)などもあります。子供が小さいうちは毎年、桑を植えて、カイコを育てるというのを続けていました。

毎日お子さんを連れて博物館に通っていた時期があったとおっしゃってましたが、何を見にきていたのですか?

毎日博物館に行くたびにお蚕さまが成長をするので、それを観察するために岡谷蚕糸博物館の年間パスポートを持っていました。幼稚園にお迎えにいったあと岡谷蚕糸博物館にそのまま直行して、最初にカイコふれあいルームでカイコの成長を観察して、そのあとに博物館の展示を一通り見て、宮坂製糸所で製糸の様子を見学して、最後に博物館前の芝生の広場で遊ぶというのが毎日のルーティンになっていました。毎日毎日、端から端まで博物館をすべて見て回るものだから、仕舞には私もすっかり博物館の展示の内容を覚えてしまいました。

また、夏休みには岡谷蚕糸博物館で開催されているサマーセミナーにも参加していました。息子はいまでは中学生(2025年現在)になりましたが、小学生のころは夏休みの自由研究でカイコについて調べたり、岡谷蚕糸博物館の館長にインタビューをした内容を「お蚕さま新聞」にまとめました。

お子さんが夏休みの宿題で作成した「お蚕さま新聞」

溢れんばかりのカイコ愛が伝わってくる新聞ですね。この珍しい品種のカイコもお家で育てたのですか?

このときは「杲(ひので)」という品種のお蚕様の卵を取り寄せて卵から育てました。稚蚕飼育は品種によっては難しくて、ときには卵は一つも孵化してくれないこともあるのですが、この品種は湿度や温度調整がうまくいって、ほぼ全てが無事孵化してくれました。成長スピードも個体差なく大きさを揃えて育てることができて500頭を無事に育てあげることができました。

難しいとされる稚蚕飼育にも挑戦したのですね。最大でどれくらいの頭数を飼っていたことがあるのですか?

あるとき、たまたま予想外のタイミングで2,000頭のカイコが孵化してしまったことがあり、そのときは本当に大変でした。とにかく桑を集めないといけないので、岡谷蚕糸博物館の他に、宮坂製糸所さんのご自宅の庭に大きな桑の木があり、その枝をもらいにいったりしました。当時は一番幼い子供が0歳だったので、ベビーカーに子供と桑の葉をのせて、一生懸命桑を運びました。孵化してしまったら、もう育てるしかないのでもう無我夢中でしたね。

蚕糸博物館からお借りした「蔟」

すごい経験ですね。それだけ沢山のお蚕さまを育てるにはかなりのスペースも必要だったのではないですか?

家では子供部屋を一つ潰してカイコ部屋にして飼っていました。広げて飼えるような広いスペースではなかったので、メッシュのプラスチックの箱を大量に購入してきて、そこに新聞紙を敷いて、何個もタワーのように積み上げて工夫をしました。繭をつくる時期も大変で、蔟をもっていたわけではないので岡谷蚕糸博物館からその時だけ緑色のプラスチックでできた蔟をお借りして、なんとか無事に2,000頭の上族ができました。

岡谷蚕糸博物館とも二人三脚で育てあげたのですね。大切に育て上げたお蚕さまの繭はそのあと、どのようにしたのですか。

育てたお蚕さまの繭は、幼稚園の卒園式のときにクラスメイトのみんなにコサージュを作ってプレゼントをしました。まゆちゃん工房で繭で作ったコサージュの見本を見て、幼稚園のお母さんと集まって子どもたちのプレゼントのために一緒に作ってみたのです。コサージュのリボンはクラスごとのイメージカラーにして工夫をしてみたり、女の子は髪飾りして喜んでくれました。

また、宮坂製糸所さんのご厚意で工場で繭からランプシェードを作る体験をさせてもらいました。自分で育てた繭を煮て、教えてもらいながらランプシェードを作る機械でクルクルと糸を型に巻き付けていく作業を体験しました。今でもそのときのランプシェードは家に飾ってあります。

宮坂製糸所にて自分で育てた繭からランプシェードをつくった

ここまでカイコ学習をお家でやり遂げるのはなかなか経験できる体験ではないと思いますが、何か発見はありましたか。

カイコという生き物を飼うことは一筋縄ではいかない難しさがあります。生き物を育てて、その命を頂いて作品にしていく過程の中で生き物をケアする難しさを知ることができました。

また、私はこの町の出身ではなく移住者としてこの町に暮らす一住人として、古くからこの町の一大産業であったシルクを通じて、この町のことを深く知ることができました。例えば桑が病気になっても剪定はどうしたらいいかとか、本にも調べても載ってないことがたくさんがありますよね。そしたら博物館に行って学芸員さんや宮坂製糸所さんに教わりにいくことで、より深く知ることができるようになります。本や動画などで学ぶこともできるけれど、今いる人に出会って、その方々から直接話を聞いて実際に自分たちでも体験してみることで、この町に生き残っている“生きた”文化を体感することができたと思います。

お蚕さまを通じて、大人も子供も学ぶことができるのですね。繭工作もお家でやってみたりしたのですか。

幼稚園の卒園式のコサージュづくりの他にも、一番下の子の夏休みの宿題でも繭工作をしました。博物館で見本をみて「自分たちでも作れそう!」という話になって、家で自分で作り方を考えて、繭からカブトムシを作り上げました。また、転校してしまうお友達がいたときは繭でその子が好きなキャラクターのお人形を作ってあげたりもしていました。

繭ってただ見るだけでもコロンとしてて可愛らしいし、繭って手触りとか肌触りがとてもいいじゃないですか。あの丸い形をした繭だけでなんでも作れてしまうのが繭工作の面白さですよね。

まゆちゃん工房担当職員とワークショップの打ち合わせする宮坂美登利さん(写真左)

美登利さんは現在、岡谷蚕糸博物館のまゆちゃん工房のクラフトアシスタントさんとして、繭工作を教える活動をされていますが、最初にどういうきっかけで始められたのですか?

新聞でまゆちゃん工房のクラフトアシスタントを募集しているのを見つけて、「これはぜひ自分にやらしてもらいたい!」と思ってすぐに応募をしました。今は4名の方と一緒に活動していますが、アシスタントの皆さんはいろんな年齢・経験をお持ちの方がいらっしゃって、お互いに作り方を教えあいながら、切磋琢磨しています。普段は学校など団体でまゆちゃん工房に体験に来る際に繭工作を教えたり、月に一回の季節のワークショップを一緒に実施したりしています。

美登利さんは手先が器用なうえにアイデアが豊富で、これまでにもたくさんの作品を発案されていますが、繭工作はどんなところが魅力的ですか。

繭はコロンと丸いほぼ決まった形をしていますが、この丸い形を活かしながら、どうやったら可愛いものができるのかなと考えるのは楽しいですし、それが形になっていくのはもっと面白いですね。

簡単そうに見えても、繭は自然のものなので、見本どおり糊で接着しようとしてもうまくいかなかったりします。それがプラスチックとか人工的な素材との違いであり面白さでもあります。繭の皮を薄く剥がしていくと空気をふわりと含んだようなお花が作れたり、繭という素材の特性を利用して作っていくのがいいですね。

宮坂美登利さんがつくられた繭工作の作品。白鳥は諏訪湖に飛来する白鳥をイメージして作られたとか。

毎月たくさんの方がまゆちゃん工房に体験に来られていますが、繭工作を教える中でどういうところを大切にしていますか。

繭は自然のものなので、綺麗だな、手触りがいいな、素敵だなとか、一個一個受け取る印象は異なります。まずは繭を見て触ってもらって、その繭の個性を生かして、そこから作りたいものを考えるというスタンスで教えています。

シルクという素材は、繭から糸や布になって、最終的にはウェディングドレスなどになる素材です。広く一般に知られている素材ではありますが、布や糸以外にも多様な可能性をもつ素材です。もちろん繭からカイコのこと、製糸のことを勉強してもらうことも大切ですが、一つの繭という素材から何をつくろうか想像力を働かして、モノを生み出す・作り出すということを体験してほしいと思っています。

一緒に同じものを作っていても、出来上がってみたらそれぞれ全然出来上がりが異なっていたりします。そういう体験に立ち会って、お手伝いができていることが幸せだなと思いますね。きっと教わった子供たちの中にも「可愛い繭人形ができたけど、この繭はどうやってできたのだろう」とか次につながる探求心が芽生えると思います。いつか「あの時に使った繭はカイコという虫からつくっていたんだ」と発見したり、学びが育つようなそんなきっかけを作れたらいいなと思います。

 

>岡谷蚕糸博物館まゆちゃん工房のイベント情報は以下より

新着情報 | 岡谷蚕糸博物館|シルクファクトおかや

 

聞き手:地域おこし協力隊 伊東ゆきの(2025年12月)

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