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-おかやシルク日記-

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2025.08.18
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つくる場をたずねる vol.1「味澤製絲株式会社」

岡谷の市街地から天竜川を越えて、諏訪湖を左手に眺めながら5分ほど車ですすむと「味澤製絲株式会社」という門が右手に見えてきます。この諏訪湖のほとりに工場を構える味澤製絲株式会社は、明治45年に創業した100年以上の歴史ある会社です。平成10年(1998年)まで製糸工場として稼働したのち、現在は主にこれから紹介をするランプシェード等を主力商品としたシルクインテリア製品等の製造・販売業を営んでいます。

人の生活を成り立たせている衣食住。シルクという素材はこの衣食住のうち「衣」に用いられることが多い素材ですが、味澤製絲株式会社では「住」に取り入れるという新たな取り組みを進めています。原料となる繭もすべて国産にこだわり、製糸工場時代から受け継がれている技術を生かして質の高いものづくりに取り組んでおられます。今回は、その製品の製造風景を見せていただきました。

 

 

シルクシェル「絹煌(きぬきらめき)」

生糸を球体の型に巻き付けてつくられる、中に骨組みが入っていないシルクだけでできたシェード。シルクの糸を幾重にも重ね、その糸の重なりの変化によって、その表情はいく通りにも異なります。その円形の形から、あかりがつくとまるでお月様のような見た目で、おぼろげな優しい光がこぼれます。シルクは熱をつたえにくく、熱に強い素材のため、照明を長時間つけていてもあまり熱くなりません。まさにシルクの特性が生かされた照明です。

 

ランプシェード「絹煌(きぬきらめき)」

 

繭殻(Cocoon shell)にちなんでシルクシェル(Silk shell)=シルクの殻という名前がついているとおり、まるでお蚕さまが糸を吐いて作った繭のような見た目をしています。その出来上がる工程も、お蚕さまが繭をつくる原理に似ています。最初に繭から引き出した糸を乾燥せずに濡れた状態のまま、回転している丸い型に巻きつけていくのですが、その糸を引き出して型に巻き付ける様子は、まるで蚕が糸を吐き出して繭をつくっていく様子のようです。

 

 

お蚕さまが頭を八の字に動かしながら、繭を作っていくのに対して、このシルクシェルの場合は、型を回す軸が角度を変えるなどして、その巻く位置と巻き目の表情を変えていきます。型に少しでも角があると糸が切れてしまったり、たるんでしまうため、試行錯誤を繰り返して今の円形のデザインが生み出されました。

 

型に糸を巻いていく様子

 

糸を巻き取る型。糸を巻き取ったあと、シェードの中で分解して取り出す。

 

糸を巻き終わった型ごと乾燥させた後、型を分解してシェルの内側から取り外せば、シルクシェルの完成です。注文を受けてから、丁寧に一つ一つ作られるシルクシェルは、その表情も多様です。天然繊維であるシルクの糸を素材とするため、その製造する環境や湿度次第で微妙な変化が生じてしまいますが、そうした難しさを乗り越えながらも再現性を高めるべく、回転する速度・回転軸の角度・巻き数を調整しながら、多様な模様が生み出されています。複数のシルクシェルを並べるとこの多様な光の模様が目を楽しませてくれます。

 

表情が一つ一つ異なるシルクシェル

 

プレスドシルク「シルクシート」「絹やすらぎ」

薄くシルクの繊維が広がる柔らかい表情のシート。名刺やお品書きの台紙、ランプシェードとして使われています。光沢のあるシルク素材によって、和紙とはまた異なった高級感が特徴的です。

 

ランプシェード「絹やすらぎ」

 

昔から布団の中綿などで利用されてきた真綿と呼ばれる、繭糸のまわりのセリシンをアルカリ液で取り除きワタ状にしたものがありますが、また別の方法でワタ状のシルクをつくる技術が開発され、シルクウェーブと呼ばれています。繭糸がもっている自然なウェーブ(カイコが吐いた8の字状)を生かして、繭から繭糸を引き出す際に糸同士が一本一本分かれるように巻き上げたワタ状のシルクです。

このシルクウェーブを平たく並べ、アイロンをするように水分を少し加えて熱でプレスすると、糸同士がセリシンと呼ばれる成分によって接着されてシート状になります。この技術によって出来上がった「シルクシート」はカットして名刺にしたり、枠にはめることでランプシェード「絹のやすらぎ」になります。

 

手作業でシルクウェーブを平たく並べていきます

 

押し花や紅葉などをワンポイント的にはさみこんだ季節を感じられるシルクシートもあります。このシートに挟み込まれた押し花は、味澤製絲㈱の周辺で育った四季の草花に手作業で色をつけ、押し花にしたものだとか。この諏訪湖のほとりの四季が閉じ込められているようです。

 

シルクシート

 

幸せを呼ぶ『シルク「おんべ」』

この工場の片隅では、シルクで小さな「おんべ」も作られていました。「おんべ」とは、7年目(6年に1回)諏訪地域で行われる御柱祭にて、みんなの力を合わせるときに用いられる道具のことをいいます。「おんべ」を振ることでその祭りにかかわった人々に幸せがおとずれるとされており、とても縁起のよいものです。

味澤製絲㈱の味澤社長ご自身も、これまで御柱祭にて地区の代表として総代という大事な役回りを務められたこともあるとか。そんな地域の文化をつたえるお土産として、キーホルダー「シルクおんべ」がつくられました。シルクおんべは、束になったシルクウェーブに鈴などの飾りをつけて、一つ一つ手作業で作られています。

 

シルク「おんべ」

 

味澤製絲㈱では、製糸業で培った、繭を煮て糸を取り出す技術をシルクインテリア製品の製造に応用しています。シルク糸の間から漏れる灯りの自然な温もりや、さわり心地よさによって、暮らしをより快適に豊かに演出してくれるシルクインテリア。ランプシェードは、ホテルや飲食店など癒しの空間でも広く取り入れられているようです。実際にその制作の背景を知ると、実際に生活に取り入れて、その魅力を味わってみたくなりますね。

 

>味澤製糸㈱の歴史や製品に関する味澤宏重社長へのインタビュー記事

味澤宏重 Azisawa hiroshige  – 岡谷シルク

 

>味澤製糸オンラインショップ

ショッピングー味澤製糸株式会社

 

書き手:地域おこし協力隊 伊東ゆきの(2025年7月)

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